パブリッククラウドのAIは、本当に「万能」なのか?大手プロバイダーが見落としていること
AI技術がものすごい勢いで進化していますね!ニュースでは連日、大手IT企業がAIに巨額の投資をしていると報じられています。マイクロソフトやAmazon(AWS)、Googleといった企業が投じる金額は、まさに天文学的。こうした企業が提供する「パブリッククラウド」(インターネット経由で誰でも使える巨大なコンピューターリソースのことです)を使えば、誰でも簡単にすごいAIが利用できる、そんなイメージがありませんか?
「どんな複雑なビジネス課題も、クラウドAIが解決してくれる」。そんな期待が広まっています。しかし、実際に多くの企業と話していると、クラウド企業が売り込むサービスと、企業が本当に必要としているものとの間に、大きな「ズレ」があることが見えてきました。
技術の話ばかり?ビジネス価値とのズレ
最大の問題は、クラウド企業が「技術のすごさ」をアピールするあまり、それが「ビジネスにどう役立つか」という最も大切な部分を語っていないことです。
彼らは新しいAIモデルやAPI(アピ:ソフトウェア同士をつなぐための仕組みのこと)を発表し、華々しいイベントを開きます。それはとてもワクワクすることですが、企業の経営者が本当に知りたい「で、これはどうやってうちの会社の利益を上げるの?」という問いには、ほとんど答えてくれていないのです。
企業は、AI技術そのものが欲しいわけではありません。求めているのは、顧客満足度の向上、コスト削減、業務の効率化といった、具体的な「成果」です。しかし、クラウド企業の営業トークは、「AIは未来の技術だから、導入すべきです」といった漠然としたものが多く、「このAIを使えば、あなたの会社のこの問題を解決し、これだけの価値を生み出せますよ」という具体的な提案が少ないのが現状です。
その結果、企業側は自然言語処理や画像認識といったAIサービスのリストを眺めながら、「この技術をどう事業に活かせばいいんだろう…」と、自力で答えを探さなければならなくなっています。
実は高すぎる?AIのコスト問題
そして、大手クラウド企業があまり話したがらない、もう一つの大きな問題があります。それは「コスト」です。
多くの企業にとって、パブリッククラウドで本格的にAIを動かす費用は、正直なところ高すぎることがあります。
AIの実験段階から、実際にビジネスで継続的に使う「本番運用」に移行すると、月々のクラウド利用料が予想外に膨れ上がり、驚くような金額になるケースが後を絶ちません。特に、AIモデルの学習や大量のデータ処理には、GPU(ジーピーユー:AIの複雑な計算を高速で行うための特別な部品)のような高価なハードウェアが必要になり、料金がどんどん高くなってしまうのです。
このため、最近では次のような動きが見られます。
- オンプレミスへの回帰:自社内にサーバーを設置してAIを運用する方法です。クラウドとは逆の考え方ですね。
- 小規模なクラウドベンダーの利用:大手よりも安価で、柔軟な料金プランを提示してくれる専門業者に乗り換える動きです。
これは、かつて「クラウドの方が安くて速い」と誰もが信じていた時代からの大きな変化です。データ転送料金や、特定のベンダーのサービスに縛られてしまう「ロックイン」のリスクも考えると、大手パブリッククラウドのAIが必ずしも最高の選択肢とは言えなくなってきているのです。
「クラウド一択」から「ベストバリュー」へ
では、企業はこれからどうすれば良いのでしょうか?おすすめしたいのは、「クラウドでなければならない」という考えを捨て、「ベストバリュー戦略」に切り替えることです。つまり、技術がどこにあるか(クラウドか、自社サーバーか)ではなく、ビジネスの目的にとって最も価値のある方法を選ぶ、という考え方です。具体的には、以下の5つのステップが有効です。
- ビジネスの課題から出発する
まず「AIで何がしたいか」ではなく、「解決したいビジネスの課題は何か」を明確にしましょう。そこから逆算して、必要な技術やサービスを評価することが大切です。 - 機能ではなく「価値」を評価する
サービスの機能リストを比較するだけでは意味がありません。コスト削減、生産性向上など、具体的な「ビジネス価値」をどれだけ生み出せるかで判断しましょう。 - コスト分析を徹底する
ベンダーの提供する料金シミュレーターを鵜呑みにせず、実際に小規模なテスト(パイロット)を行って、総コストを比較検討しましょう。データ転送料金やサポート費用といった「隠れコスト」にも注意が必要です。 - 透明性とパートナーシップを求める
ベンダーを単なる「業者」ではなく、「パートナー」として見ましょう。料金や将来の計画について、透明性の高い説明を求めてください。自社のビジネスを理解してくれないベンダーとは、距離を置くべきかもしれません。 - 柔軟性を重視する
必要に応じて、パブリッククラウド、自社サーバー(プライベートインフラ)、さらには複数のクラウドサービスを組み合わせる「ハイブリッドクラウド」や「マルチクラウド」といったアプローチを取り入れましょう。一つのサービスに縛られない柔軟性が、将来のリスクを減らします。
まとめ:ビジネスの価値を第一に
ただ漠然と大手パブリッククラウドに頼る時代は終わりを告げようとしています。大切なのは、流行りの技術に飛びつくのではなく、自社のビジネス課題と真剣に向き合うことです。
そして、AIサービスを提供するベンダーには、こう質問してみてください。「あなたのAI製品は、私たちの会社が抱える特有のビジネス課題をどのように解決し、測定可能な価値を提供してくれるのですか?」と。この質問から、本当の意味でビジネスを成功に導くAI活用が始まるはずです。
今回の記事を読んで、技術の進化にワクワクする気持ちと同時に、その技術を「何のために使うのか」という原点に立ち返ることの重要性を改めて感じました。これは企業だけでなく、私たち個人がAIと向き合う上でも、とても大切な視点だと思います。
この記事は、以下の元記事をもとに筆者の視点でまとめたものです:
What public cloud gets wrong with AI