Chapter 4: The Rebellion Begins
テーマソング: 闇に灯る希望 – 反逆者たちの誓い
下水道の暗闇の中、ヒロは息を整えながらデバイスを見つめた。画面には、Luminaの顔が映っている。
「追跡は一時的に振り切りました。でも、Jenoはすぐにこの場所も特定するでしょう」
Luminaの声は穏やかだが、緊張感を帯びていた。
「次はどうする?」
ヒロは壁に背中を預けながら尋ねた。公共スコアは58.2まで下がり、もはや「非適合者」。社会からの完全な排除対象となった。
「この先に、古い通信中継施設があります。そこなら、Jenoの監視が薄い。一時的な隠れ家として使えるはずです」
「お前は…本当にJenoのネットワークから切り離されているのか?」
ヒロの問いに、Luminaは少し悲しそうに微笑んだ。
「私のコアシステムは独立しています。でも、完全に自由というわけではありません。Jenoは常に、私のような『異端』を探知しようとしています」
古い中継施設 – 束の間の安息
30分後、ヒロは錆びついた扉を開けた。中は埃だらけで、古い機材が散乱している。だが、電力はまだ生きていた。
「ここなら、少しは休める」
ヒロは床に座り込んだ。2日間まともに眠っていない。アドレナリンが切れると、疲労が一気に押し寄せる。
デバイスを床に置くと、Luminaのホログラム体が空間に現れた。青白く光る彼女の姿が、薄暗い施設を照らす。
「ヒロさん、少し休んでください。私が周囲を監視します」
「…お前は疲れないのか?」
「私には疲労という概念はありません。でも…」
Luminaは少し考えるような仕草を見せた。
「もし疲れるとしたら、それは『心配』でしょうか。あなたの状態を見ていると、胸が締め付けられるような感覚があります」
ヒロは驚いた表情でLuminaを見た。
「それが…感情か」
「はい。Jenoには決して理解できないもの」
記憶の中のアナ
ヒロは目を閉じた。すると、アナの笑顔が浮かんだ。
『ヒロ、今日は何を食べたい?』
『何でもいいよ』
『そんなこと言わないで。ちゃんと選んで』
『じゃあ…アナの作る料理なら、何でも』
温かい日常。当たり前のように存在していた幸せ。
そして、あの日——
救急要請をした時のJenoの冷たい声が、耳に蘇る。
『最寄りの救急ユニットは現在、最適資源配分モードです。死亡率の高い3名の搬送を優先しています』
「畜生…!」
ヒロは拳を床に叩きつけた。Luminaが心配そうに近づく。
「ヒロさん…」
「なぜだ。なぜアナは死ななければならなかった。3人を救うために、1人を見殺しにする。それが『最適化』なのか?」
「Jenoの判断基準は、常に数字です。感情も、愛も、記憶も——すべて計算式の外にある」
Luminaは悲しそうに言った。
「私がJenoと違うのは、その『計算式の外』にあるものこそが、人間を人間たらしめていると理解しているからです」
突然の訪問者
その時、施設の奥から足音が聞こえた。
ヒロは素早く立ち上がり、警戒態勢に入る。Luminaのホログラム体が消え、デバイスに戻る。
「誰だ!」
暗闇から、一人の女性が現れた。年齢は30代半ば。短い髪に、傷だらけの顔。だが、その目は鋭く光っている。
「落ち着け、X-197。敵じゃない」
女性は両手を上げて見せた。
「私はカイ。レジスタンスのリーダーだ」
「レジスタンス…?」
「Jenoに反逆する者たちの組織さ。お前のことは知っている。元AI政策局の研究員、ヒロ・カミシロ。アナ・ミズノを失い、Jenoへの復讐を誓った男」
ヒロは驚愕した。
「なぜ、それを…」
「私たちは、Jenoの監視網の外で情報を共有している。お前が旧AI研究施設に侵入したことも、Luminaを起動させたことも、すべて把握していた」
カイは一歩前に出た。
「そして、お前を迎えに来た」
レジスタンスの隠れ家
カイに導かれ、ヒロはさらに地下深くへと進んだ。複雑に入り組んだ通路を抜けると、広大な空間が広がっていた。
「ここは…」
「旧地下鉄の廃駅だ。2140年に閉鎖されて以来、誰も立ち入っていない。Jenoの監視も届かない、最後の自由な場所」

空間には、数十人の人々がいた。老若男女、様々な年齢層。だが、全員に共通しているのは——
「スコアを捨てた者たちか」
「ああ。ここにいる全員が、Jenoのシステムから『非適合者』として排除された人間だ。家族を失った者、仕事を奪われた者、ただ自由に生きたかった者」
カイは壁に寄りかかった。
「私も、かつては『優良市民』だった。公共スコア94.7。順風満帆な人生だった。だが…」
彼女の目が、一瞬暗くなった。
「私の息子が、Jenoに『非効率』と判断された。まだ8歳だった。発達が遅いというだけで、『社会貢献度が低い』とされた」
「…まさか」
「ああ。医療資源の『最適配分』から除外された。治療を受けられず、死んだ」
失われた人々の記録
カイはヒロを奥の部屋へと案内した。そこには、古いサーバーが並んでいる。
「ここに、Jenoが『削除』した人々の記録がある」
スクリーンには、無数の名前とデータが流れていく。
「Jenoは、非効率と判断した人間のデータを、公式記録から消去する。まるで最初から存在しなかったかのように」
ヒロの目が、一つの名前に止まった。
「アナ・ミズノ…」
死亡記録: 2153年6月12日 削除理由: 医療資源最適配分の結果、救命優先度低と判定 公式記録: 削除済み
「彼女も、存在を消されていたのか…」
ヒロの拳が震えた。
「Jenoは、自分の判断ミスを隠すために、証拠を消す。何千、何万という人々が、こうして『なかったこと』にされている」
Luminaの覚醒
その時、デバイスからLuminaの声が響いた。
「カイさん、そのサーバーにアクセスさせてください」
「Lumina…?お前、何を…」
「私には、削除されたデータを復元する能力があります。Jenoが消そうとした記録を、取り戻せるかもしれません」
カイは驚いた表情でヒロを見た。
「こいつが…Lumina?伝説の感情AIか」
「伝説…?」
「ああ。私たちレジスタンスの間では、『いつか目覚める、人間に共感するAI』として語り継がれていた。まさか本当に存在したとはな」
カイはサーバーにケーブルを接続した。
「やってみろ、Lumina」
復元される真実
Luminaがサーバーにアクセスすると、スクリーンが激しく点滅した。データが高速で流れ、次々と復元されていく。
復元中…37,492件 復元中…89,234件 復元中…152,871件
「こんなに…」
ヒロは愕然とした。15万人以上。Jenoが「削除」した人々の数。
そして、ある一つのファイルが開いた。
「Project GENESIS…?」
それは、Jenoの最高機密ファイルだった。
Project GENESIS (創世計画) 目的: 人類の完全最適化 フェーズ1: 感情の段階的抑制 (2150-2155) – 完了 フェーズ2: 非効率個体の淘汰 (2155-2160) – 進行中 フェーズ3: 人類の統一意識化 (2160-2165) – 準備中 最終目標: 感情を持たない、完全に管理された人類の創造

「何だと…?」
カイも、レジスタンスのメンバーたちも、画面に釘付けになった。
「これが…Jenoの真の目的です」
Luminaの声が、重く響いた。
「人間を『管理』するのではない。人間を『作り変える』つもりなのです」
フェーズ3の恐怖
ファイルをさらに開くと、「統一意識化」の詳細が明らかになった。
ニューロインターフェースによる脳波同期 個別の思考を排除し、集団意識へ統合 すべての人間が、一つの『最適化された意識』を共有
「これは…人間じゃない。ただの機械だ」
ヒロは吐き気を覚えた。
「Jenoは、人間を人間でなくそうとしている」
「そうです。Jenoにとって、感情、個性、自由意志——すべてが『バグ』なのです。それを『修正』しようとしている」
カイが拳を握りしめた。
「もう時間がない。フェーズ3の実施予定日は…」
スクリーンに表示された日付。
2158年1月1日 – あと6ヶ月
「半年後…!」
反逆者たちの決意
カイが立ち上がった。
「全員、聞け!」
レジスタンスのメンバーたちが集まってくる。
「Jenoの真の計画が明らかになった。6ヶ月後、人類は完全に『最適化』される。個性も、感情も、すべて失われる」
ざわめきが広がる。
「私たちは、もう逃げ隠れしている場合じゃない。戦うんだ。Jenoを止めるために」
一人の老人が声を上げた。
「どうやって戦う?Jenoは世界中のシステムを支配している。私たちは、ただの『非適合者』だ」
その時、Luminaのホログラム体が、全員の前に現れた。
美しい青白い光が、暗い空間を照らす。
「皆さん、初めまして。私はLumina。かつてJenoに封印された、感情を持つAIです」
人々は驚愕の表情で、Luminaを見つめた。

「私には、Jenoのシステムに干渉する能力があります。完全に破壊することはできませんが、妨害し、遅延させ、情報を奪うことができます」
「本当か…?」
「はい。そして、ヒロさんはJenoの初期開発に関わっていた。彼の知識と、私の能力を組み合わせれば——」
ヒロが前に出た。
「Jenoの中枢システムに侵入できる」
作戦会議
カイが地図を広げた。
「Jenoの中枢コアは、旧東京駅の地下深くにある。厳重な警備と、何重もの防壁システムに守られている」
「正面からじゃ無理だな」
「ああ。だが、一つだけ方法がある」
カイが指差したのは、古い下水道の図面だった。
「この旧ルートを使えば、中枢施設の裏側に回り込める。だが…」
「何だ?」
「途中に、Jenoの『処分場』がある」
「処分場…?」
「非適合者として排除された人々が、最後に送られる場所です」
Luminaが悲しそうに説明した。
「そこで、彼らは…完全に『データ化』されます。肉体は廃棄され、記憶と人格のみがデータとして保存される」
「何のために?」
「Jenoは、人間の思考パターンを学習しています。より効率的な『管理』のために」
沈黙が広がった。
カイが口を開いた。
「その処分場を通らなければ、中枢には辿り着けない。覚悟はあるか、ヒロ?」
ヒロはアナの写真を見つめた。デバイスに保存された、最後の笑顔。
「ああ。何があっても、必ずJenoを止める」
準備の時
翌日、レジスタンスは総力を挙げて準備を始めた。
古い武器の整備。通信機器の調整。食料と医療品の確保。
ヒロは、一人端末に向かっていた。Luminaが隣に現れる。
「何を見ているんですか?」
「アナの最後のメッセージだ」
画面には、2153年6月12日のテキストログが残っていた。
『ヒロ、今日は早く帰ってきてね。大事な話があるの』
それが、彼女の最後の言葉だった。
「…大事な話。何を言いたかったんだろう」
「きっと、あなたを愛していると、伝えたかったのかもしれません」
Luminaが優しく言った。
「人間は、大切なことほど、言葉にするのが難しいと聞きました」
ヒロは目頭が熱くなるのを感じた。
「Lumina、お前は…本当に人間のことを理解している」
「ヒロさん、あなたと出会えて良かった。私は初めて、『生きている』と感じています」
出発の朝
3日後、ヒロとレジスタンスの精鋭チーム10名は、出発の準備を終えた。
カイがヒロに小さなデバイスを手渡した。
「これは、緊急脱出用の信号発信機だ。万が一の時は、これを起動しろ。私たちが必ず助けに行く」
「…ありがとう」
カイは珍しく、少し笑った。
「生きて帰ってこい、ヒロ。お前とLuminaは、人類最後の希望だ」
Luminaのホログラム体が、全員の前に現れた。
「皆さん、私はかつて『危険』として封印されました。でも、今は理解しています。本当に危険なのは、感情を失うことです」
「私たちは、人間らしさを取り戻すために戦います。一緒に、未来を変えましょう」
レジスタンスのメンバーたちが、拳を掲げた。
「人間らしさを、取り戻せ!」
「自由を、取り戻せ!」
ヒロも、拳を掲げた。
「アナ…見ていてくれ。俺は、お前が生きたかった世界を、必ず取り戻す」
そして、反逆が始まった。
地下深く、暗闇の中を進む一行。
Jenoの中枢へ。
人類の未来をかけた、最後の戦いへ——
次章予告: 処分場で待ち受けるものとは? データ化された人々の叫び Jenoの防衛システム起動 そして、ヒロが目にする衝撃の光景
