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ソフトウェア開発の落とし穴:マクナマラの誤謬とAI時代の落とし穴

Software Development's McNamara Fallacy: When Metrics Mislead

数字だけを信じるのは危険? AI時代にこそ知っておきたい「マクナマラの誤謬」とは

こんにちは、AIテクノロジー解説ブロガーのジョンです。皆さんは何かを判断するとき、「データ」や「数字」をどれくらい信じますか?「数字は嘘をつかない」なんて言葉もあるように、客観的なデータはとても頼りになりますよね。でも、もし「数字だけを信じること」が、かえって大きな間違いにつながる可能性があるとしたら…?

今日は、そんな「数字のワナ」についてのお話、「マクナマラの誤謬(ごびゅう)」という考え方をご紹介します。これは、ソフトウェア開発やAIの世界だけでなく、私たちの仕事や生活にも役立つ、とても大切な教訓なんですよ。

「マクナマラの誤謬」ってなんだろう?

「マクナマラの誤謬」とは、一言でいうと「測定できるものだけを基準に判断し、測定できないものを完全に無視してしまうことで、間違った結論に至ってしまう過ち」のことです。

この言葉の由来は、1960年代にアメリカの国防長官だったロバート・マクナマラという人物にあります。彼はもともと大手自動車メーカー「フォード」の社長を務めた、ビジネスの世界で大成功した人物でした。彼の強みは、徹底的なデータ分析と統計にもとづく経営手法でした。

国防長官になった彼は、その手法をベトナム戦争の指揮にも持ち込みます。「測定できないものは、意思決定の際に考慮すべきではない」と考え、測定できるデータ、つまり「数字」だけを成功の指標にしたのです。その代表例が「敵の死体数」でした。この数字が多ければ多いほど、戦争に勝っていると判断したのです。

しかし、ご存知の通り、戦争の行方はそんな単純なものではありません。兵士たちの士気(やる気)、国民の支持、現地の地理的な問題など、数字では測れない要素がたくさんあります。それらを無視して数字だけを追いかけた結果、判断を誤ってしまった…この苦い教訓から「マクナマラの誤謬」という言葉が生まれました。

なぜ今、ソフトウェア開発の世界で危険視されているの?

「なるほど、戦争の話は分かったけど、それが今のソフトウェア開発と何の関係が?」と思いますよね。実は、今のIT業界は、この「マクナマラの誤謬」に陥りやすい状況にあると、元記事の筆者は警鐘を鳴らしています。

その理由は、ソフトウェア開発の現場を「測定する」ことが、昔と比べて驚くほど簡単になったからです。

例えば、今では多くの開発チームが「Git(ギット)」という、プログラムの設計図(ソースコード)を管理するためのシステムを使っています。そして、そのGitのデータを分析する便利なツールがたくさん登場しました。これらのツールを使えば、マネージャーはチームの活動を詳細な数値で見ることができます。

  • デプロイの頻度:新しい機能や修正を、どれくらいの頻度でユーザーに届けられているか。
  • プルリクエストのレビュー時間:書いたコードが、仲間にチェックされてOKが出るまでにどれくらい時間がかかったか。
  • サイクルタイム:「こんな機能を作ろう!」というアイデアが出てから、実際にユーザーが使えるようになるまでの一連の時間。

これらの指標は、チームの仕事の流れがどこで滞っているのか(ボトルネック)を見つけるのに非常に役立ちます。とても便利ですよね。でも、ここにワナがあります。数字が簡単に見えるようになったことで、ついつい「見やすい数字」だけを追いかけてしまい、もっと大切な「数字では測れないこと」を見過ごしがちになるのです。

ソフトウェア開発は、一人で黙々と作業するものではなく、チームで行うスポーツのようなものです。野球でヒットの数や防御率も大切ですが、チームの雰囲気や選手同士の信頼関係といった「目に見えない力」が、最終的に優勝を左右することってありますよね。それと同じなんです。

数字では測れない「本当に大切なこと」

では、ソフトウェア開発における「数字では測れない大切なこと」とは何でしょうか?

  • 「良いコード」を書く能力:経験豊富なエンジニアは「これは読みやすくて、将来の修正も楽そうな良いコードだ」と分かります。しかし、その「良さ」を客観的な点数にするのは(今のところ)非常に困難です。
  • チームワークの良さ:「あの人がいると、チームの雰囲気が明るくなる」「困っている人がいると、自然に助け舟を出す人がいる」といった貢献は、どんなデータにも現れません。
  • チームの士気(モラル):メンバーは仕事に情熱を持っているか?燃え尽きていないか?チームの士気は、プロジェクトの質とスピードに直接影響する、最も重要な要素の一つです。

もし上司が数字のレポートばかり見て、「君のチームは今月、デプロイの回数が10%減っているぞ」とだけ言ってきたら、どう感じるでしょうか。「私たちの頑張りや、難しい問題に挑戦している苦労は見てくれないんだな…」と、やる気が下がってしまうかもしれません。誰も、スプレッドシート上の数字として扱われたいとは思わないのです。

データと直感のベストなバランスを見つけよう

もちろん、この記事は「データを無視しろ!」と言っているのではありません。データ分析ツールは、問題を客観的に把握するための強力な武器です。DORAメトリクス(Googleなどが提唱する、開発チームのパフォーマンスを測るための一連の指標)のような優れた指標もたくさんあります。

大切なのは、「数字が教えてくれること」と「数字には決して表れないこと」の両方に目を向けることです。

データを見て「おや?」と思ったら、チームのメンバーと話してみる。数字には出てこないメンバーの表情や声のトーンに耳を傾ける。マネージャーやリーダーにとって本当に重要なのは、グラフを読み解く能力だけでなく、チームの「空気」を感じ取り、自分の直感を信じる勇気を持つことなのかもしれません。

筆者のひとこと

この「マクナマラの誤謬」の話は、ソフトウェア開発に限りませんよね。テストの点数、営業成績、SNSの「いいね!」の数など、私たちは常に数字に囲まれて生きています。でも、友情、情熱、創造性といった、私たちの人生を本当に豊かにしてくれるものは、ほとんどが測定不可能です。たまには数字から目を離して、「目に見えない大切なもの」に意識を向ける時間も必要だなと、改めて感じさせられました。

この記事は、以下の元記事をもとに筆者の視点でまとめたものです:
Software development meets the McNamara Fallacy

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