プライバシーか、セキュリティか? 話題のツール「トルネード・キャッシュ」を巡る米国の裁判、ついに決着へ
こんにちは!ブロックチェーン技術の面白さを、誰にでも分かりやすくお伝えするブロガーのJonです。今日は、インターネット上のお金のプライバシーに関わる、とても重要なお話です。「自分のネットでの活動やお金の動きを、他人に見られたくないな」と感じたことはありませんか? 今回のニュースは、そんなプライバシーを守るための技術が、アメリカで大きな議論を巻き起こしたというお話です。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、大丈夫。いつものように、例え話を交えながら、一つひとつ丁寧に解説していきますね!
そもそも「トルネード・キャッシュ」って何?
まず、今回の主役である「トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)」についてご説明します。
ビットコインやイーサリアムといった暗号資産(仮想通貨)が動くブロックチェーン(みんなで管理するデジタルな取引記録ノートのようなもの)の世界では、基本的にすべてのお金の動きが公開されています。「誰が」「いつ」「誰に」「いくら送ったか」という情報が、世界中の誰もが見られる記録として残ってしまうのです。これは透明性が高いというメリットがある一方で、「自分の金融情報が丸見えになってしまう」というプライバシーの問題も抱えています。
そこで登場したのが「トルネード・キャッシュ」です。これは、一言でいうと「お金の出所を分からなくするためのミキサー」のようなツールです。
例えば、こんな感じです。
- Aさん、Bさん、Cさんが、それぞれ自分のお金を大きな箱(トルネード・キャッシュ)に入れます。
- 箱の中でたくさんのお金がごちゃ混ぜになります。
- その後、Aさん、Bさん、Cさんは、自分が入れたのと同じ金額を、別の出口から受け取ります。
こうすると、外から見ている人には、誰がどのお金を受け取ったのか、元々は誰のお金だったのかが全く分からなくなります。これにより、ユーザーは自分の取引のプライバシーを守ることができるのです。この仕組みは、スマートコントラクト(特定のルールに従って自動で契約を実行してくれるプログラム)というブロックチェーン上の技術で動いています。
なぜアメリカ政府はこれを問題視したのか?
プライバシーを守れるなんて、素晴らしいツールじゃないか!と思いますよね。しかし、アメリカ政府は違う見方をしました。
アメリカには、OFAC(オファック:財務省外国資産管理局)という組織があります。これは、テロリストや犯罪組織、アメリカが制裁を科している国などへお金が渡らないように監視する、とてもパワフルな機関です。
OFACは、このトルネード・キャッシュが、ハッカー集団や犯罪組織による資金洗浄(マネーロンダリング:悪いことをして手に入れたお金の出所を分からなくすること)に悪用されていると指摘しました。実際に、北朝鮮関連のハッカーグループが盗んだ暗号資産をきれいにするために、このツールを使っていたとされています。
このためOFACは2022年、「トルネード・キャッシュは国の安全を脅かす」として、アメリカ国民がこのツールを利用することを禁止する、という非常に厳しい措置を取りました。
「コイン・センター」の訴えと裁判の結果
この政府の決定に「待った!」をかけたのが、コイン・センター(Coin Center)という団体です。彼らは、暗号資産やブロックチェーン技術の健全な発展をサポートする、アメリカの非営利団体です。
コイン・センターは、政府を相手取って裁判を起こしました。彼らの主張はこうです。
- トルネード・キャッシュは、特定の組織ではなく、ただの「プログラム(コード)」である。政府が特定の人物や団体ではなく、プログラムそのものを禁止するのはおかしい。
- プライバシーを守る権利は重要だ。犯罪に使われる可能性があるからといって、善良な市民がプライバシーを守るためのツールまで禁止するのは行き過ぎだ。
- プログラムのコードを公開することは「言論の自由」に含まれる。それを禁止するのは憲法に違反する。
「国の安全」を守りたい政府と、「個人のプライバシーや自由」を守りたいコイン・センター。この対立は、テクノロジー社会が抱える大きな課題を象徴するものとして、世界中から注目を集めていました。
そして先日、この裁判の控訴審(一度目の裁判の結果に不服があるとして、もう一度審理を求めること)について、裁判所はコイン・センターの訴えを退ける判断を下しました。これにより、一連の法的な争いは終わりを迎え、現時点では政府によるトルネード・キャッシュの利用禁止措置が維持されることになったのです。
筆者Jonのつぶやき
今回のニュースは、本当に難しい問題だなと改めて感じさせられました。もちろん、犯罪者が技術を悪用するのは許せません。でも、だからといってプライバシーを守るための便利な技術そのものを「悪」と決めつけてしまうのは、なんだか窮屈な世の中になってしまいそうで少し怖さも感じます。テクノロジーが進化するスピードに、社会のルール作りがどう追いついていくのか。今後もこのテーマから目が離せませんね。
この記事は、以下の元記事をもとに筆者の視点でまとめたものです:
U.S. Court Brings Coin Center’s Tornado Cash Appeal To A
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