AI時代のデータ品質を守る新常識、「シフトレフト」って何?
こんにちは、AI技術について分かりやすく解説するブログライターのジョンです。
最近、AIがどんどん賢くなって、私たちの仕事や生活に欠かせない存在になってきましたね。でも、そんなAIが正しく動くためには、何よりも「質の高いデータ」が必要です。ところが、このデータを扱う現場では、しばしば予期せぬトラブルが起こりがちです。開発者が良かれと思ってやった小さな修正が、後で大きな問題を引き起こしてしまう…なんてことも。
今日は、そんなデータにまつわる問題を未然に防ぐための新しい考え方、「シフトレフト」について、誰にでも分かるように解説していきますね!
昔と今のデータ管理、何が違うの?
昔のシステム開発では、まずデータベースの専門家がデータの形(スキーマ)をガチガチに決めていました。開発者はそのルールに従うしかなく、少し不便でも我慢して作業を進めるのが普通でした。これは、とても時間がかかり、融通が利かない方法でした。
一方、現代の開発では、開発者がもっと自由にデータを生み出せるようになりました。特にAIやデータ分析の世界では、まずデータを集めてから、その使い方を考える「スキーマ・オン・リード」という手法が主流です。これにより開発はスピードアップしましたが、新たな問題も生まれました。
それは、「データを後から使う人が困る」という問題です。開発者が自由にデータを変更できるということは、そのデータを使っている分析ツールやAIモデルが、突然動かなくなるリスクがあるということです。その結果、開発者は「何かを壊してしまうかもしれない」と怖がり、かえって変更をためらってしまう、というジレンマに陥っていたのです。
あるエンジニアの体験談:たった1行のコードが招いた悲劇
ここで、具体的なお話を一つ紹介しましょう。これは、とある企業で実際に起きた(かもしれない)お話です。
サポートチームの優秀なエンジニア、ジェズさんは、システム内のデータを見て、あることに気づきました。問い合わせチケットのIDに、必ず「zendesk:」という余計な文字列が付いているのです。これは10年前に古いシステムから移行したときの名残で、今となっては全く不要なものでした。
「この8文字、無駄だな」
そう考えたジェズさんは、この接頭辞を削除するコードを1行だけ修正しました。
もし「データ契約」がなかったら…
ジェズさんの修正は、テストも問題なくパスし、そのまま本番環境に反映されました。しかし、その結果は悲惨なものでした。
- ある処理(ETLジョブと呼ばれます)が、接頭辞のなくなったIDをデータファイルに書き込んでしまいました。
- あるAIモデルが新しいデータを認識できなくなり、分析対象の40%が静かに欠落し始めました。
- コンプライアンス(法令遵守)のルールで一度書き込んだデータは消せないため、エンジニアたちは新旧両方のデータ形式に対応する、複雑な修正作業に追われることになりました。
- たった30秒で終わるはずだった小さな改善が、1週間にも及ぶチームをまたいだ大騒動に発展してしまったのです。
そして、ジェズさんは「たった1行のコードで全てを壊した人」として、みんなの記憶に残ってしまいました。
もし「データ契約」があったなら…
では、もし「データ契約」という仕組みがあったらどうなっていたでしょう?
「データ契約」とは、「このデータは、こういう形でなければならない」というルールをあらかじめ決めておく約束事です。
ジェズさんがコードを修正して保存しようとした、その瞬間。彼のPC画面に、即座にエラーが表示されます。
「❌ 契約チェック失敗:項目 ticket_id がルール『^zendesk:\d+$』に一致しません」
さらに、この変更がどのシステムに影響を及ぼすかまで表示されました。
- finance.dashboard.ticket_volume (財務ダッシュボード)
- ml.model.ticket_attribution (機械学習モデル)
これを見たジェズさんは、すぐに変更を元に戻しました。失われた時間は、わずか30秒。大惨事は未然に防がれました。
「データはコードである」- シフトレフトの考え方
この体験談が示しているのが、まさに「シフトレフト」という考え方の重要性です。
シフトレフトとは、一言でいえば「問題のチェックは、もっと早い段階(左側)で行おう」という考え方です。開発プロセスを左から右への時間軸で考えたとき、問題が後工程(右側)で見つかるほど、修正コストは大きくなります。だから、もっと手前、つまりコードを書いている段階(左側)でチェックしよう、というわけです。
この背景には、「データはコードから生まれるのだから、データもコードと同じように扱うべきだ」という思想があります。コードのバグをテストで早期に発見するように、データの不整合も、それが生まれる瞬間に発見すべきなのです。
シフトレフトを実現するための道具箱
この「データのシフトレフト」を実現するために、以下のような技術やツールが使われます。
- 静的解析:プログラムを実行する前にコードをスキャンして、どんなデータが作られるかを特定します。
- データ契約:先ほどの例のように、データの形や意味、所有者をルールとして定義し、CI(コード変更を自動でテストする仕組み)で自動チェックします。
- 変更影響分析:一見無害そうなコード修正が、後工程のAIモデルなどにどんな影響を与えるかを開発者に警告します。
- コードとしてのポリシー:個人情報の取り扱いなどのルールを、後から監査するのではなく、開発の段階で自動的にチェックします。
こうした仕組みによって、ジェズさんが行ったような変更がクリティカルなシステムに影響を与える場合でも、問題が大きくなる前に検知できるのです。
筆者のコメント
データの「シフトレフト」、なるほど!って感じですよね。問題が起きてから大慌てで対応するんじゃなくて、問題が起きる前に仕組みで防ぐ。まさに「転ばぬ先の杖」です。特に、データの質がすべてを左右するAIの世界では、こういう考え方がますます当たり前になっていきそうですね。開発者も安心して、もっと速く良いものを作れるようになる、素敵な未来が見えてきます。
この記事は、以下の元記事をもとに筆者の視点でまとめたものです:
It is time to shift data left